海外プロジェクト

夢想改造家(足不出戸家)~中国のリフォーム番組~

パーキンソン病・認知症・脳性まひ患者の住まい改善

概要

パーキンソン病の父とアルツハイマー型認知症の母、そして脳性まひの娘を持つ夫婦が暮らす5人家族の住まいの改造である。
奥様は、特徴的な症状を持つ高齢な父母と先天性の重度の障害を持つ娘の介護に追われていた。
奥様ご自身もがんサバイバーでありながら介護を担い、心身に重い負荷が掛かっており、健康上の悪影響が懸念される状況だった。
エレベーターの無い6階に住んでいたこともあり、容易に外出できない生活を送っていたが、家族がもっと陽の光を浴びて自由に暮らせることを望んで、庭付きの中古住宅へ引っ越すことになった。

■パーキンソン病とは
パーキンソン病は、脳の異常のために体の動きに障害が出る進行性の病気である。主に次のような特徴的な症状が出現する。
・振戦(手足の震え)
・動作緩慢(動作の鈍さ)
・筋固縮(筋肉の固さ)
・歩行障害や姿勢反射障害(小刻みで足をすった歩き方、転倒のしやすさ)
出来るだけ早い投薬治療とリハビリが重要である。

■既存平面図

■課題の整理
1.生活リズムが不安定(昼夜逆転)
 ①母は早朝に起きてしまうことが多い。
 ②娘が深夜に寝ないことが多い。
2.パーキンソン病の症例に沿った環境が必要
 ①父のベッドからトイレが遠い。
 ②様々な運動機能障害があり方向転換が難しく、更に進行する。
 ③徐々に寝室で過ごす時間が多くなるため、長時間滞在できる環境が必要。
3.認知症の症例に沿った環境が必要
 ①昼寝が長く、早朝に起きる(不眠症状)。
 ②引っ越すことで自宅を認知し難くなる。
4.聴覚障害と知的障害のある娘への環境が必要
 ①エネルギーが有り余って不眠症状がある。
 ②生活のほとんどの部分で介助が必要。

■対応策:リズム・安全・安眠・感知・回復をテーマに、家族の生活を整える
1.生活リズムの安定への対応
・サーカディアン照明、サーカディアンカーテン等により生活リズムを整え、健康と快適性を向上する。
2.パーキンソン病の症例への対応
・パーキンソン病患者にとって動線計画は非常に重要な意味がある。寝具や家具の配置等でリビングやトイレへの動線を単純にすることで方向転換を減らす。
3.認知症の症例への対応
・可能な範囲で、慣れ親しんだ生活環境を再現する。
・庭に家庭菜園を設けて昔の記憶を呼び起こし、農作業によって症状の進行を遅らせると共に充実した日常生活を取り戻す。
4.脳性まひの症例への対応
・生活空間と時間の構造化を意識することで本人の行動を促し、介助の労力を軽減する。
・室内及び庭に回遊動線を確保することで、運動し易い環境の整備。

■生活リズムの安定への対応策
●一日の流れ
平均的な日常を見ると、認知症の母の起床時間が早く娘の就寝時間が遅いのが分かる。
介護者の負担が重く、身体がもたないので、家族全員の生活リズムの改善が必要と考えた。
 

●サーカディアンリズムを調整し、生活リズムを改善する
サーカディアン照明、サーカディアンカーテン等により生活リズムを整えて、健康と快適性を向上する。
パーキンソン病・認知症・脳性まひという三者三様の症状においても、サーカディアン照明等を用いた光の色温度と照度のコントロールにより、昼は覚醒、夜は安眠といった生活リズムの改善に寄与できる。
昼は青白い光環境で脳からセロトニンを分泌させ、夜は低い色温度の照明によって睡眠ホルモンであるメラトニンが分泌し易くする。質の高い睡眠環境を整備することで、生活リズムを改善する。

■サーカディアンリズムとは
●サーカディアンリズム=概日リズム
ある時間になると眠気を感じること、空腹感を感じること、一定周期で月経が来ることなどの身体リズムは「体内時計」と呼ばれる。
そのなかで、およそ25時間周期のものは「サーカディアンリズム」「概日リズム」と呼ばれる。
24時間と比べて 1時間長いため、少しずつ夜型になりやすくなっている。

●サーカディアンリズムの調整
サーカディアンリズムは同調因子によって、24時間周期に合うように調整されている。
<主な同調因子>
・光(特に太陽光が有効) ・時間を認識するもの
・食事  ・運動

●室内照明環境
体内時計の調節には、朝に十分な光を浴び、寝る前には暖色系の低い照度で過ごすことが重要である。
現代では、日中は屋内で生活することで浴びる光の量が減り、夜間は大量の光を浴びている。
これは体内リズムの乱れを招き、睡眠障害をはじめ、肥満、糖尿病、うつ病、認知症など多くの健康被害の原因になる。

●覚醒と睡眠
日光を浴びると、脳内ではセロトニンという神経伝達物質が分泌される。
セロトニンは幸せホルモンとも呼ばれ、精神の安定や安心感や平常心、頭の回転をよくし直観力を上げるなど脳を活発に働かせる脳内物質である。特にストレスに対して効能がある。
また、セロトニンは脳から分泌される睡眠ホルモンのメラトニンの原料となる。
つまりセロトニンの分泌量はメラトニンの量にも影響する。
メラトニンにはサーカディアンリズムを調整する作用がある。

■サーカディアン照明とは
●太陽光と照明のスペクトル(波長ごとの強度)の違い
太陽光は、日中は青色が若干強く、夕方になるにつれ赤色が強くなっていく。
蛍光灯やLEDなどの照明は、青、緑、赤の三色付近にピークがある。基本的に光のスペクトルは変わらない。

 

●時間帯によって照度を変える
太陽光のスペクトルを取得し、類似したスペクトルを再現する照明がサーカディアン照明である。
調光調色により照明環境と自然光とのギャップを少なくし、サーカディアンリズムを整える。
午前中は青色中心の光で集中力を高め、午後は赤色中心の光で明るさを落としてリラックスできる環境をつくる。
 

【左】2700k 【右】6000k / 夢想改造家2019(忘不了的家)より抜粋

■リビングダイニングとキッチンの工夫
生活リズムを整えるために、あらかじめ設定しておいたサーカディアンモードの照明により、時間帯によって照度が変わる。
父母と娘は、椅子に座ってテレビを観ていることが多かったので、体勢を変えやすいようにリクライニング式のソファにしている。
また、娘はほぼ素足でいるため床暖房を設置している。

【左】リビング  【右】玄関及びダイニング

ダイニングの椅子の背もたれ上部は手すりを兼ねている。また、ダイニング脇の収納には横になれるベッドが格納されている。
キッチンには刃物や火気など娘にとって危険なものが多いため、キッチン入口の引き戸は内側から鍵を掛けることができる。
さらに、ダイニングに背を向けて調理中でも、各部屋の様子を見ることができるよう、取り外し可能なタブレット型モニターを設置。

【左】ダイニング  【右】キッチン

パーキンソン病の父とアルツハイマー型認知症の母への対応策

父母寝室は、パーキンソン病の父とアルツハイマー型認知症の母の症例に沿った配慮がされている。
方向転換を極力減らした単純な動線計画によって、スムーズな移動ができる。
また、サーカディアンモードに設定された照明とカーテンが穏やかに生活リズムを整えるとともに、電動介護ベッドが起き上がりを補助し、防水性のマットレスで介護の負担を軽減している。
さらに、壁面収納に木製手すりを設けて転倒防止を図っている。
そして、天井にはTVが格納されており、将来、寝室で過ごすことが増えた際にも快適に過ごせるようにしている。

父母寝室/父が移動しやすいように父のベッドを奥に配置した

【左】3枚連動引戸  【中】左側を開けると父が使いやすい  【右】右側を開けると母が使いやすい

トイレの扉は3枚連動引戸にし、左側を開けると父がベッドから便器まで楽に移動でき、右側を開けると母が利用しやすくなる。
洗面・トイレ・浴室の床は、転倒防止と冷たさを感じないように長尺シートを貼った。クッション性やメンテナンス性にも優れている。
トイレは立ち座りの楽な電動式リフト便座を設置している。
シャワーは立ったままでも座った姿勢でも利用できる。また、右手奥には介護者用の扉を設置している。

父母寝室からの動線と父母専用サニタリー

脳性まひの娘への対応策

奥様と娘の寝室のヘッドレスト収納は、かつてお住まいだった寝室と同様の二段の棚にすることで、今までの生活の名残を残し、安心感を与えている。
さらに、サーカディアン照明とサーカディアンカーテンで、昼夜逆転した娘の生活リズムを整えている。
 

【左】奥様と娘の寝室  【右】カウンター/介護に多忙な奥様のために鏡台を格納している

【左】夫婦室  【右】サニタリー

夫寝室は、夫婦で使えるよう広い造作ベッドを設置した。ベッド下は収納になっている。
また、メインサニタリーはシャワーの際、娘が座れるように折り畳み椅子を設置している。

 

みんなのためのリハビリの庭

庭は、防滑性に優れたゴムチップを施し、回遊動線を確保したリハビリのための庭である。
認知症の母のために家庭菜園を設け、農作業によって昔の記憶を呼び起こし、症状の進行を遅らせるようにしている。
また、回遊動線によって娘も運動しやすい。パーキンソン病の父の歩行訓練のために、50cm間隔でラインを引いたリハビリスペースもある。

五感を穏やかに刺激する色彩と安らぎの香りが漂うハーブ等の植栽の園芸療法を施し、家族が陽の光を浴びながら安心して暮らせる空間になっている。

パーキンソン病患者は、床に目印があると歩きやすい。また、スロープよりも階段の方が歩きやすいという特徴がある。

改修後平面図

依頼者家族から届いたビデオメッセージ

プロジェクト概要

家族構成 5人(父(89)・母(80)・夫(56)・妻(50)・娘(26))
主要用途 集合住宅
主な建築場所 中国江蘇省南京市
延床面積 135㎡+庭60㎡
竣工年月 2022年9月

Contact無料お問い合わせ・資料請求

仙台本社

〒981-0933 宮城県仙台市青葉区柏木一丁目3-12-111
TEL:022-346-1388 FAX:022-346-1387 Mail:info@hom-ma.co.jp

上海事務所:虹夢建築咨詢(上海)有限公司

中国上海市长宁区茅台路1068号天祥大厦706室
TEL:186-1690-5276(Una手机)Mail:615709806@qq.com

無料相談会実施中!

流れや予算について、具体的に御相談致します。

建築無料相談はこちら

資料請求

作品一覧をお送りします。お気軽にお問い合わせください。

資料請求はこちら